『たった一人の30年戦争』 小野田寛郎

 

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62回目の終戦記念日です。



日本の夏は広島・長崎への原爆投下、そして終戦の時期にあたりますから、先祖が帰ってくるといわれるお盆前後は平和や戦争について考えさせられる季節です。



まったく出口の見えないイラク戦争自民党参議院選挙に大敗しましたので、外交・防衛政策が大きく変わることがあるのでしょうか。護憲を強く主張していた勢力は選挙で支持を得られませんでしたが、イラク特措法の延長に反対していた民主党は大躍進です。





靖国の問題もありますね。拙ブログでも、『靖国問題の原点三土修平』 などを取り上げました。昨年、当時の小泉首相が公約としていた8月15日の靖国神社参拝をしてから一年、今年、安倍首相はどうするのか注目していましたが、どうも見送りのようです。



参拝すれば、せっかく好転し始めた日中関係がぎくしゃくしますが、何もしなければ首相の支持層である保守的なグループからも批判が出る。板ばさみでしょうが、それにしても曖昧戦略というのは、どうなんでしょう。どういう立場の人にもあまり良い印象を与えないように感じます。



さらに先日は慰安婦問題で日本に公式謝罪を求める決議案が、“同盟国” と思っていたアメリカの国会で可決されてしまいました。日本の大臣が、“原爆投下はしょうがない” と発言し辞任。戦争の傷跡は何年たっても癒えることはありません。





さて、本書です。



終戦が昭和20年で、その約30年後、昭和48年にフィリピンのルバング島で発見された小野田寛郎氏の著作です。敬愛する tani 先輩 が、読んで泣けたという一冊です。



小野田氏はジャングルから出て、身柄を当局に確保された後でさえ、「上官の命令解除がなければ帰国しない」 と語り、わざわざかつての上官がフィリピンに飛んで直接命令解除を伝えました。

小野田 敬礼.jpg





 「美談」 ととらえるのか、究極の 「悲劇」 と感ずるか…。それこそ当時は大ニュースで、子供だった私もよく記憶しています。小野田氏の敬礼した写真は今でも頭に焼き付いています。



戦争を知らない当時の子どもには、それがどういうことか理解できるわけもなく、単によく30年も、ジャングルで逃げ回っていたものだと感心しただけですが、本書を読むとそれがまったく考え違いだとわかります。



小野田氏は30年の間、人目に付かないように、必死で食料だけを集めて逃げていたのだと思い込んでいましたが、とんでもない誤り。実はひたすら日本軍の勝利を信じて、時に人里へ降りて、攻撃すら仕掛けながら生き延びていたということがわかります。



書名の通り、本当に氏は30年間一人(途中まで二人) で闘っていたのです。以前にご紹介した 『還ってきた台湾人日本兵(河崎真澄)』 で、その身柄を確保した際の話しにも大変驚きましたが、本書の記述にも同様で、戦争を知らない世代には衝撃的です。





以下が目次です。



ブラジルの日々

30年目の投降命令

フィリピン戦線へ

ルバング島での戦闘

密林の「残置諜者」

「救出」は米軍の謀略工作だ

終戦28年目、小塚一等兵の“戦死”

たった一人の任務遂行

帰還、狂騒と虚脱と

生きる
 



ジャングルでの生活の描写も想像を絶するものだったのですが、さらに印象的なのは、氏が日本の変わりようを嘆いているくだりです。戦争に負けてしまったことはともかく、なぜ日本がこうも変わってしまったのかという戸惑いと無念と怒りでしょうか。



こんな日本にいるくらいなら、という思いでブラジルに渡ってしまいます。そのニュースを聞いた当時は、どうも腑に落ちない気がしたものですが、本書を読んでその真意がわかりました。





日本のために戦い続けた人がなぜそんな決断をせざるを得ないのか、戦争だけでなく、現在の日本社会を考える機会を与えてくれる絶好の一冊だと思います。多くの人に読んでいただきたいと思います。







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P.S.また、小野田氏は慰安婦の問題に関して、数年前に雑誌「正論」に論文を掲載しております。よろしければご覧下さい





 ⇒ ■ 私が見た従軍慰安婦の正体 ■







たった一人の30年戦争

            小野田 寛郎

            東京新聞出版局

            

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