『犬と鬼 知られざる日本の肖像』アレックス・カー

 

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受験生にとっては、特に都会の生徒たちは雪に弱いので、暖冬はラッキーだと思っておりましたが、どうも度を越しているようで、東京・神奈川では花粉がすでに飛んでしまっているようです。先日取り上げました、ゴアの『不都合な真実』の記述がますます真実味を帯びて感じられます。


それにしても本当に増えましたね、花粉症の生徒。ひどい人になると薬がなければ集中できない状態になってしまいますから、花粉症の生徒には、こちらの方が雪よりもずっとやっかい。いや生徒だけでなく大人も。私はたまたま大丈夫なのですが、私の家族もそうですし、講師にもたくさんおります。


私が最初に、花粉症は日本人の“体質” の問題ではなく、“人災”、つまり官僚の誤った政策の結果であると知ったのは、ベンジャミンフルフォードの『日本がアルゼンチンタンゴを踊る日』 を読んだ時だったと思います。

林野庁だか国土交通省だかの政策で次々に杉を植え続けたが、結局輸入杉を使うために伐採しないまま放置した結果、こんなに多くの国民が花粉症に苦しんでいる。しかしマスコミは指摘しないし、国民は怒らないし、役人は責任を取らないまま、依然として杉を植え続けている、というような指摘だったと思います。

ゆとり教育も同様ですが、何であれ、いったん実施した政策を過ちだったと認めて転換することは官僚は絶対にいやなんですね。さっさと杉を切り倒せば、あるいは他の木に代えれば良いだけだと思うのですが…。


本書もそれと似た観点から日本を批判します。カー氏は父親が海軍の弁護士で、12歳の時に来日し、その後アメリカの大学で日本学を専攻。再び来日して30年以上日本に住んでいるようです。

美しき日本の残像』 という本を日本語で書き、ある文学賞を受賞するほどの日本通ですが、なぜこんな国になってしまったのかと強い怒りと悲しみを持って書いています。

もとは外国人向けに英文で書かれた 『Dogs and Demons』、日本の現状分析の本で、それを翻訳したのが本書です。

外国には「ジャパノロジスト」と呼ばれる日本大好き外国人記者が相当数いるらしいのです。それらの人は自発的に、また中にはいろいろな日系の組織などに雇われて記事を書いているのですが、日本人から見ても、あるいは筆者のような、日本は好きだが非常に問題ありという意見を持つ人から見ても誤解を招くだけとしか思えない記述がたくさんあるようです。


日本の文化を知ったつもりで書いているのですが、何を見てもほめてしまうのだそうです。例えば何の役にも立たないような美術館やダムなどです。

本当の日本の姿を外国人に知ってもらうのが英文出版の意義で、同時に日本人に問題の本質を提示したいというのが日本語版の意義です。日本人にとってはかなり耳の痛い話が続きます。

痛烈な批判が含まれているためか、本書に対する書評は非常に厳しいものも多いですね。“日本に二度と来て欲しくない” とか “外国人の意見だとすぐにありがたがって聞く日本人がおかしい” などなど。


目次を紹介しておきます。


国土―土建国家
治山・治水―災害列島
環境―ステロイド漬けの開発
バブル―よき日々の追憶
情報―現実の異なる見方
官僚制―特別扱い
モニュメント―大根空港
古都―京都と観光業
新しい都市―電線と屋上看板
鬼―モニュメントの哲学
「マンガ」と「巨大」―モニュメントの美学
総決算の日―借金
国の富―お金の法則
教育―規則に従う
教育のつけ―生け花と映画
国際化―亡命者と在日外国人
革命は可能か―ゆでガエル


処方箋を示してはいますが、それがうまくいく可能性はわずかしか残されていないという意見です。自然破壊だけでなく、京都など景観すなわち伝統の破壊、何も言わない国民の幼稚性、官僚の傲慢さ、政治の無力さなどなどを指摘しています。


最後の “ゆでガエル” ゴアの本でご紹介した理論ですね。確かにこんなもの海外で出されたら日本の恥だと憤慨する気持ちもわからなくはないですね。でもそんなカー氏も、35年住んできた日本を離れ、とうとうバンコクへ行ってしまったと聞くと、ちょっとさびしくないですか(笑)。


カー氏の本書に関するインタビューがネットにありますので、よろしければご覧下さい。
 
 → 『アレックス・カー:インタビュー(月刊プレイボーイ)』
 

挑発的ではないのですが、読者を怒らせるほど、刺激的な本ですから、興味のある方はそれを承知の上でどうぞ。

 

 

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『犬と鬼 知られざる日本の肖像』アレックス・カー
講談社:387P:2625円