『美人論』井上章一


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ジェンダーフリーフェミニスト運動はやや下火とはいえ、男女差別に対し、かなりの力や正当性を持つ時代に、美人論とは何ごとか。このような題名の本をご紹介すると、眉をひそめる方もいらっしゃるでしょうが、お許し下さい。


これは、確か、
小谷野敦氏が薦めていた本で、とてもおもしろく、学問的な一冊です。“美人とは” という顔の美醜や振る舞いの良し悪しの定義などを論ずるのではありません。ましてジェンダーフリーなどを攻撃するようなものでもありません。

実際、本書の解説は、フェミニスト運動のチャンピオンである、
上野千鶴子氏がなさっているのです。(しかも出版は朝日新聞社(笑))。実は上野氏と井上氏はかなり親しい様子で、解説も抜群におもしろかったです。


歴史的にどのように美人が扱われてきたか、その政策や世相などを研究、考察したまじめな一冊です。誰も手を付けなかった分野の研究ではないでしょうか。 


本書を読みますと、“美人” というカテゴリーを表社会から消したことによって救われたのは、そうでない人々ではなく、美人たちだとわかります。歴史を見ると、アメリカの黒人は差別が少なくなって社会的地位が上がりましたが、美人はカテゴリーがなくなって救われた側です。

つまりそれまで、美人とされていた人々は、もてはやされていたどころか、差別を受けていたとすら言える事実がたくさんあり、驚きました。


アメリカの学校の現場では、黒人というカテゴリーがないように、日本でも現代では、教育上、建前上、顔の美醜は存在しません。個性があるのだということになっています。今となっては当たり前の話です。


私が高校生の頃、国語の先生が授業中に 『
松坂慶子さんを美人だと思う人?そうではないと思う人?』 と我々生徒に挙手を求めました。美人ではないと手を挙げた数人の生徒がおり、先生は、『あんな美人はめったにいないと思うが、実際にはそうでないと言う人もこうしているだろう。このように美人がどうかは、人によって異なる、主観的なものなので、他人にそれを押し付けてはいけない』 と言われました。なるほど、その通りだと思ったものです。


しかし現実の社会では、テレビのアナウンサー、モデル、レースクイーンでもやはり、多くの人から見て美人のカテゴリーに入りそうな女性がほとんどですね。


本書は美人の存在そのものが否定されている今日までの、美人の歴史などを紹介しておりますが、上野氏は、美人とは何かが出てこないので、“中途半端”だと批評し、上野氏らを井上氏の側に巻き込もうとしても、“その手は桑名の焼きハマグリ” とおどけていました(笑)。


目次だけを書きます。


1・受難の美人

2・美貌と悪徳

3・自由恋愛の誕生

4・容貌における民主主義

5・資本と美貌

6・管理される審美眼

7・拡散される美貌感

8・努力する美人たち

9・禁忌と沈黙

10・美「人」論の近未来


以上です。


決して試験には出ないでしょうが、読んでいて昔の日本の、知られざる世相が興味深いです。よろしければどうぞ。


以前、ご紹介した、『
なぜ美人ばかりが得をするのか(ナンシーエトコフ)』。書名はダメですが、こちらもハーバード大学の心理学博士が書いた、非常におもしろい一冊で、“美”や“美人” というものを扱います。本書と同様、お薦めできます。




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『美人論』井上章一
朝日新聞社:314P:861円


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