『文科省が英語を壊す』 茂木弘道



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夏休みもいよいよ最後の週になりましたね。早いところでは30日くらいから学校が始まりますから、猛烈に宿題を片付けはじめているころでしょう(笑)。ただし、公立の特に小学校は以前よりずっと宿題も少なくなりましたので、それほど大変ではないかもしれませんが、どうでしょう。



私は大学生の頃から20年以上、当教室で、大学受験の英語教師をしておりますが、だいたい10年ほど前、その頃からずっと感じ続けているのは、生徒達の英語文法力の明らかな低下です。



グローバル化にともなった、英語に対する興味や関心、時代のニーズはむしろ高まっているにもかかわらず、なぜ英語の学力が下がるのか、最初は不思議な現象に当惑したというのが本音です。



当教室近くにあるトップレベルの進学校と呼ばれる高校に通っている生徒達を定点観測しながら、授業をしていますと、それまで難なくできた文法問題が年々できなくなっている。



一方、公立中学に通っている生徒に目を移しても、中一の生徒達の最初の難関、“3単現のS” に関する定着度がかなり落ちていました。逆に文法がこれまでのようにきちんと理解できている生徒が入塾してきた時に聞いてみますと、ほぼ例外なく、塾や予備校で勉強してきた経緯を持っていました。



素朴に “いったい学校で何が起こっているのだろう” という疑問から、それまでも英語学習に関する本はいろいろ読んでいましたが、その頃から “英語教育” に関する本を手にするようになりました。今となっては日本人の英語力低下は、TOEFLアジア最下位という結果でも明らかです。





結論として、私が学力低下を肌で感じはじめたよりさらにずっと前、1977年に当時の文部省の肝煎りでスタートした 「会話重視」 の英語教育がその元凶だとわかりました。本書の指摘通りです。それが世間に知れわたったのは、2002年に始まった “ゆとり教育” の論争があったおかげです。



学力低下”問題は英語だけの話ではなかったわけです。講師仲間によく聞いてみると、数学の計算力や国語の漢字の定着度に同様の事態が起きており、当時出版された、『分数ができない大学生』 などの著作に大いに賛同したものです。





そうした学力低下に関する書籍の中で、本書はもっとも痛烈に英語の教育政策を批判した一冊です。刺激的なタイトルそのままに、会話重視、そして文法軽視の英語教育を鋭く糾弾し、同時にその背景にある「ゆとり教育」を「愚民化政策」とまで断罪します。



目次です。



第1章 英語力低下の実態と英語教育改革

第2章 英語に対する三つの錯覚

第3章 求められている英語力

第4章 使える英語への道

第5章 受験英語の意味と役立つ証明

第6章 ポスト受験英語 





筆者は決して英会話が無価値であるとか、日本人には無理だなどと考えているわけではありません。発音やリスニングを日本人が本格的に身につけることは十分可能であるとし、その方法論もしっかりと提示しています。



ただしそのためには「運動部としての英会話トレーニング部」が必要だそうです。楽しく英語を身に付ける、という考えは甘いと。 『英語耳(松沢喜好)』 や 『英文快読術(生方昭夫)』 に通ずる指摘で、当然だと思います。学問ですからね。





オーラルコミュニケーションの重要性は理解できますが、どう考えても、週一回程度、学校に外国人を招いて英会話の授業をしてもらえば解決するという問題ではありません。



舌鋒鋭いので、本書には賛否両論あるかもしれませんが、現場の人間としては、「よく言ってくれた」 というところです。英語教育に関心のある方にお薦めします。







P.S. 実は、灘高キムタツこと、木村達哉先生の 『灘高キムタツの国立大学英語リーディング超難関大学編 』 に私が書かせていただいたコラムは、まさにこの問題意識からです。それに対して、木村先生のご著書の書評に、拙文に対するありがたい言及がアマゾンに載っていました。よろしれけばご覧下さい。









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文科省が英語を壊す (中公新書ラクレ)

            茂木 弘道

            中央公論新社

            

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