『夏の庭 The Friends 』 湯本香樹実



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さぁ、すばらしい一冊 『夏の庭』 を取り上げましょう。以前、『入試に出された本3』 でご紹介した際にもコメントが集中していた作品で、ご存知の方も多いでしょう。



そう、確かに中学入試、高校入試に非常によく出される本なのですが、勉強に関係なく、ぜひお読みいただきたいと思わせる作品です。



国語の入試問題で扱われる小説というのは、子どもの成長を描いたものが圧倒的に多く、本書もその例にもれませんが、悲しくて、楽しくて、見事なエピソードの展開を見せます。



主人公の“ぼく” ことキュウリの木山、肉屋の息子でデブの山下、エキセントリックな性格で父親がいないメガネの河辺。この小6、3人組が、“人が死ぬところを見よう” と話し合い、あるボロ屋に住む、一人暮らしの老人の見張りを始めるところから物語が始まります。



子ども向けに、「老い」 や 「死」 を扱ったもので、これほどさわやかな読後感を残せる作品は意外に少ないのかもしれません。また、副題に 「The Friends」 とあるように、友情の物語でもあるわけです。その老人まで含めて…。







ストーリー ■〜■







3人は学校や塾に通う途中で、まるで自分たちが探偵にでもなったかのように、めぼしを付けた、その弱々しい老人の家を見張ったり、尾行をしたりしながら老人が死ぬのを今か今かと待ちます。



初夏だというのに、こたつに入ってテレビを見ているだけの老人で、単調な日々を送っているのですが、いざ毎日張り込みを続けていても、なかなかすぐに死んでくれるようには見えません。



辛抱しきれずに、ついついちょっとしたさぐりを入れたり、おせっかいなどをしているうちに老人に見つかってしまいます。とても気難しいおじいさんでした。



おじいさんの方は、自分がイタズラ坊主どもに見られていることが分かると、彼らをおどしたり、時にはからかったりするようになります。それまでは、何をするでもなくテレビを見てコンビニ弁当を食べているだけの老人だったのですが、死ぬどころか、逆に少年たちからの刺激がかえっておじいさんを若返らせてしまったようなのです。



なんだかんだとやりとりをしているうちに、少年らはおじいさんになついていきます。書名にある「庭」 というのはおじいさんの家の庭ですが、はじめは山積みのゴミで悪臭を放ち、草も伸び放題だったものが、やがて少年たちが植えた花で埋められ、美しい交流の場へと変化してゆきます。



ミイラ取りがミイラになるといった様相なのですが、時には塾や習い事を忘れてしまうほど、3人はその庭で楽しい時を過ごすようになります。



ある日、昔話をねだられたおじいさんは、とうとう昔、自分が戦争で罪のない人を殺したこと、そして戦争が終わっても妻であった人のもとへ帰らず、結局こうして一人暮らしをしているということまでも語ります。



一度だけ、おじいさんに連れられて外出したのは、川のほとり。日が暮れる頃、おじいさんは子どもたちから身を隠し、彼らが探している時に、突然大きな花火をあげて見せます。若い頃、花火職人であったおじいさんが、少年たちに忘れられない夏の夜をプレゼントします。



この夏休み、おじいさんと関わったために、少年たちは他にもいろいろな経験をします。結局、毎日のように遊びに行くようになったおじいさんの家ですが、数日間のサッカーの合宿から帰って訪ねてみると、おじいさんは眠るように亡くなっていました。テーブルの上には、一緒に食べようと準備していたぶどうが…。



少年たちは、最初のもくろみ通り、人の死体を見、お骨を拾うことになるわけです。もちろん今となっては、まったく死を望まない人、皮肉にも自分たちの最大の理解者となったおじいさんの突然の死、さらにその庭がアスファルトで埋められてしまうというところまで経験します。



受験も終わり、卒業式のあと、その思い出を胸にそれぞれ別の道を歩み始めます。












とまぁ、こんな感じですが、本書を読まれた方だと、あれ、あの話は?などと思われるかもしれませんね。この本には、これ以外にもまだおもしろいエピソードがいくつもあります。



正直、ちょっと詰め込みすぎという気もします(笑)。まぁ、うまく収まっているので、違和感はまったくありませんが。



友情、成長の物語ですが、そこには老人と少年たちのふれあいや死だけでなく、ケンカがあり、受験や塾があり、女の子あり、大人の男女や家庭の不和があり、戦争があり、過疎と開発まであります。映画化されているようですが、原作に忠実にやったら10時間でも足らないのではないかと思わせるほどですね。



次から次に印象深いエピソードが出てきますから、飽きません。心にぐっとくる場面、緊迫する場面がいくつもあり、小学生でも、本好きならどきどきしながら一気に読んでしまうかもしれません。様々な賞を受賞し、英訳も出され、世界十数カ国で読まれているそうです。





読めばきっと夏が来るたびに思い出すような、出色の一作ですし、読書感想文にもしやすい内容だと思います。多くの方にお薦めします。



 

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