『プロ弁護士の思考術』 矢部正秋



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弁護士とひとくちに言っても、さまざまな専門分野があり、仕事の仕方や交渉相手のタイプもそれによっていろいろでしょう。本書の著者、矢部正秋氏は1943年生まれで、ビジネス・国際取引法務を専門とするベテラン弁護士です。





そうなると扱う紛争の規模や金額も大きく、相手も一級の知識と戦略を持ったタフなネゴシエイターであると想像しますが、どうでしょうか。本書を読みますと、実際、そういう相手との交渉を有利にまとめ上げるのは容易なことではないようすで、あらゆる手段を駆使するのですね。



そもそも書名の “プロ弁護士” という言葉自体、逆に “しろうと弁護士” のようなものが存在することを暗示していますが、弁護士の中にも、将棋のプロとアマなみの差があるそうです。





筆者は、自分が扱ったり、見聞きした事件などを例にとり、ベテラン弁護士の考え方を7つに集約。そうしたことが一般の人々が煮詰まったり、トラブルに巻き込まれた時にも役立つのだということを示してくれます。



ここ数年、日本で “訴訟” にまで持ち込まれたものが約50万件もあるそうです。そこまでいかない紛争の数は、おそらくその30倍くらいという法則を紹介し、仮に日本に1500万件の争いがあるとすれば、まさに 「社会のあるところ紛争あり」 だというわけです。





その7つがそのまま各章になっています。





第1章
 話の根拠をまず選りすぐる―具体的に考える



第2章
 「考えもしなかったこと」を考える―オプションを発想する



第3章
 疑うことで心を自由にする―直視する



第4章
 他人の正義を認めつつ制する―共感する



第5章
 不運に対して合理的に備える―マサカを取り込む



第6章
 「考える力」と「戦う力」を固く結ぶ―主体的に考える



第7章
 今日の実りを未来の庭に植える―遠くを見る 







まず、最初に強調するのが、“意識的に考える” こと。人間のすべての尊厳は “考える” ことにあり、考えが人間の現在をもたらし、未来を決めるのだと言い切ります。



“いつだって自分は考えている” と反論したくなりますが、著者は、普通人の言う“考える”は単に “意識している” に過ぎないと指摘、意識しているというのは、漠然としたアイデアや雑念にすぎず、常に具体案を捜し、思いつくことが “考える” ということで、それには精神の飛躍が必要であると述べます。





やや抽象的で分かりにくいかもしれませんが、私は大きくうなずきました。自分を振り返ってみても、“考えている” という場合の多くは、“忘れていない、気になっている” というだけに過ぎません。それでは問題解決には役立たないということを言っていて、本来、考えることは人間の本能ではなく、意識的な行動、あるいは精神的な戦いだということでしょう。

訴え、訴えられるという世界の中では、味方だと思っていた証人が寝返ってしまう、裏切られてしまうということもベテランは想定します。厳しい社会、「大方の人間は欲得で動く」 と警告します。どんなに不愉快であっても、そういう現実を直視して、復数の解決策、つまりオプションを提示できるのがプロ弁護士だそうです。



我々、一般の人間に 「人を見たら泥棒と思え」 と言っているのではありません。ありとあらゆる可能性を考慮に入れて行動するように促すのです。そのためには、権威や先入観を取り払い、感覚を研ぎ澄まし、自分を含めて事態を客観視すること俯瞰することの重要性を説いています。



ただし、筆者がそうできるようになったと感じたのは、50歳くらいだそうです。ですから言葉でいうよりもそれを実践することははるかに難しそうですが、こういうことを知っておくだけでも有益ではないでしょうか。





昨日ご紹介した『子どもを育てる絶対勉強力(外山滋比古)』でも、日本人は論理が苦手だと指摘していました。以前に取り上げた名著、鈴木光司氏の『なぜ勉強するのか』 では、子どもや教育者向けに、論理的に考えることの重要性を説いていました。



本書では、一般の人やビジネスマンなどがトラブルになった時、論理的に考えることの有用性を解説した感じです。拙文がやや固い内容紹介になってしまいましたが、本書は体系立った学問的な記述ではなく、古典的な書物などから言葉を引用した、エッセイ、教養書といったおもむきです。大学生以上にお薦めです。







P.S. 本書は、相互リンクの 雨さん が、『おもしろいそうだよ』 と教えてくれたものです(笑)。



Thank you、アニキ!



 

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