『大衆食堂の人々』呉智英


 

大衆食堂 呉智英.jpg


ブログを通して大先輩から、ベストフレンドまでたくさんの知り合いができましたが、兄貴分という感じがぴったりなのが雨さん。AMラジオと読書を愛する武道家であり、ワンボックスカー1台の運送業


その雨さんが去年の11月ごろ、メールで、“これを読めよ” と教えてくれたのが、柄谷行人呉智英の著作です。柄谷の方は『終焉をめぐって』、そして呉智英は本書を読みましたが、『終焉をめぐって』は私の頭では、一度読んだだけでは整理できませんから本書から(笑)。


勉強不足で恥ずかしいのですが、時々、呉智英という“字面”はいろんなところで見ていたものの、これほどの大物だとは知りませんでした。浅羽通明宮崎哲弥小谷野敦までも呉智英氏に心酔しているようですね。


さらに最近は、いじめに関して、


「被害者が自ら死を選ぶなんてバカなことがあるか。死ぬべきは加害者の方だ。いじめられている諸君、自殺するぐらいなら復讐せよ。死刑にはならないぞ。少年法が君たちを守ってくれるから」


と発言し問題になりました。正直、私もこれを読んだ時、驚きました。たとえそれが“真理”であったとしても、いじめっ子を殺してやろうと考える子どもは、そもそも自殺しないでしょうから。ですからこれは、子どもへのメッセージというより、諸制度に対する皮肉ではないかと…


本書は、こういう調子で歯に衣着せることなく、“大衆食堂” という場所に集う人々を観察したり、逆に進歩的知識人とかアイドルなどの有名人を遠慮なく揶揄しています。非常に痛快でした。

また、動物について、子どもについて、女性について、本屋について、あらゆる身の回りのものを題材に、ずば抜けた観察力と独特の切り口で俎上に乗せてしまいます。まるで言葉の料理人ですね。


哲学や文学・歴史を背景にした深い教養がところどころうかがわれますし、全編を貫いてユーモアもたっぷりで、声を出して笑う場面がいくつもあります。上品な内容ではありませんが、単なるブラックユーモアでもなく、実におもしろいエッセーです。


最後の章、『学問のすすめ』だけはまじめに(笑)書いているのですが、ここは考えさせられます。俗受けする美談を語ることによって、知識の詰め込みを批判する勢力を徹底して嫌悪しています。

確か、小谷野氏も何かの著作で、知的怠惰は罪であるというようなことまで、言い切っていたように記憶しています。

一見物分りの良さそうなリベラリズムは、無知のサタンだとまで言っています。受験勉強が地獄だとして、だから何なのだ。受験生は東大をめざせなどなど、それぞれに興味深い指摘が続きます。


そして、吉本隆明について、“進歩的知識人批判を一貫しておこなったこと”において、後世に名を残す思想家と、高く評価しています。おもしろいのは上で取り上げた柄谷氏は逆で、吉本氏に関して、“大衆からの孤立感” を理由に立場を変えたことを批判しています。“知”と呼ばれるようなものはそもそも“大衆”から遊離しているからこそ、知なのだというわけですね。


知とか大衆とか教養とか知識人とか、そういったことを考えるためのヒントがいっぱいありますし、単にゲラゲラ笑いながら読み進めることもできる貴重な一冊でした。


雨アニキの雨ニッキ(笑)。ぜひ訪れてみて下さい。


     ⇒ 『雨日

 

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 『大衆食堂の人々』呉智英
双葉社:213P:470円

 

 

 



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