『ヤバい経済学ー悪がき教授が世の裏側を探検』スティーヴン・D・レヴィット スティーヴン・J・ダブナー


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本書の第一章は、『学校の先生と相撲の力士、どこがおんなじ?』です。


学校の先生と言ってもアメリカの公立校の先生ですが。どこが同じだと思います? 何と筆者の主張は、両者ともズルをする、という点です。


私の愛読するブログ、『米流時評』 の ysbee さんが教えていただいたように、ブッシュ政権の政策 “ No children left behind ” (一人も落ちこぼれさせない法) のため、学校にテストが義務付けられ、生徒の成績の良い先生や学校は表彰されますが、悪い学校には、罰が与えられたりします。


テストですから、すべてのデータがそろっています。それをあるアルゴリズムで解析し、確率的にあり得ないパターンを指摘します。明らかに教師が手を加えた解答だとわかってしまうわけです。どこかで見たことがあると思ったら、サイモンシンの 『暗号解読 で見られたような手法でした。


えっと、本書からではありませんが、“不自然な並び” の単純な例は、例えば…

100問ある4択の選択式のテストで50点という点数はごく自然ですが、答案を見ると、前半50問がすべて正解で、残り50問がすべて誤りだったしたら、不自然というよりほとんどあり得ない結果です。確率を調べればそう判断できます。

テスト結果から、そういうあり得ないパターンが見つかり(もっと複雑な解析ですが)、先生のズルがわかってしまうわけですね。経済学というより、数学、統計学を応用している感じです。数学的解析の仕方としては、『数学ができる人はこう考える(シャーマンスタイン)』の一部に似ていました。



さて、日本人にとっては相撲が大問題。力士が八百長をしたのではないかと週刊誌が報道し、力士たちの事情聴取をしたというニュースは本当にショッキングでした。


相撲も学校のテスト同様に、すべての取り組みの記録が残っていて、学者たちにとってはさまざまなデータ分析をするうえで理想的です。

ここでは7勝7敗の力士が千秋楽に勝つ確率、8勝6敗の場合、また、7勝7敗対8勝6敗の対決、7勝7敗対7勝7敗など、またその同じ力士が別の状況で戦った場合など、さまざまなパターンを紹介し、明らかに八百長が行われているとほのめかします。

残念ながら、説得力のあるデータのように見えます。

他にも、さまざまな興味深い分析、データ解析がならんでいるのですが、いずれも読者を納得させるに充分です。教育分野にも多くのページが割かれていますから、お薦めできます。


データというのは人によっては単なるゴミが、筆者にとっては宝の山になっています。学校ごとのテスト結果など、人によっては、ランク順に並べて終わりになってしまいますが、使いかたによっては大変な証拠資料になるわけです。教師のインチキがあると仮定、推測し、データのどこをどう分析するかが勝負です。まさに暗号解読です。相撲も同様のやり方です。


データの読み取り方やアンケート自体に手を加えれば、世論を作り出せるとか、自分の主張に見せかけの客観性をほどこすことができることを見事に暴いたのが、谷岡一郎氏の『社会調査のウソ』 です。こちらもすごい一冊でした。


本書は、それ以前の、疑う余地のない、何の変哲もないデータの中に、信じられないような真実が隠されているということを教えてくれます。谷岡氏の著作に劣らず、刺激的です。データによって、人々の思い込みを正していくわけですね。


また、分野は異なりますが、やはりデータを利用して、人々の心理を分析したものに『なぜ美人ばかりが得をするのか(ナンシーエトコフ)』。また、そういったことをビジネスに活用しようとするものに、『影響力の武器(ロバートチャルディーニ)』 があります。


この二冊とも、特に後者は超お薦めと言っても良いほど、私のお気に入りですが、本書もそれに劣らず、ひきつけられました。書名は “経済学” となっていますが、専門用語は全く使われておらず、“ヤバい” が表わすように訳もくだけた書き方で、高校生でも読めるのではないでしょうか。

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『ヤバい経済学ー悪がき教授が世の裏側を探検する』 スティーヴン・D・レヴィット スティーヴン・J・ダブナー
東洋経済新報社:336P1890円