『日本文明の真価 − 今、世界が注目する』 清水馨八郎 


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「日本人は決まって、遅かれ早かれ、日本にいる外国人に対し、必ず “Do you like Japanese food? 日本食は好きですか)” ときく」  と、ある大学の英語の入試問題にありました。

確かに!私もききます(笑)。他のことが話題になっていても、間が空くと、つい、“How about Japanese food?(じゃあ、日本食はどう?)” なんて。まぁ導入とか、間を埋めるには無難かなと思うわけですが…。

その日本通のアメリカ人はさらに続けて、“日本には独特の文化が他にもたくさんあるのになんでみんながみんな、繰り返し繰り返し同じ質問をするのだろう、なぜいつも食べ物なんだ” と突然気付くのです。


なるほど。逆にアメリカ人から “Do you like American food?” と聞かれた記憶はありませんね。いかがでしょう。


さて、日本の文化を取り上げた有名な本といえば、ベネディクトの『菊と刀』、中根千枝の『タテ社会の人間関係』、土居健郎の『「甘え」の構造』、ペンダサンの『日本人とユダヤ人』、李御寧の『「縮み」志向の日本人』 などがあります。

筆者によれば、いずれもその指摘はユニークであるが、残念ながら、その独特な日本文化が生まれた背景や原因などが納得いくかたちで示されていない。

例えば、ペンダサンの 「日本人は水と安全はただだと思っている」 という指摘は、的を射ているが、その理由は、ユダヤ民族の住むパレスチナの乾極と、日本の湿極で島国の風土を比較すれば容易に説明できるのに、というわけです。そのとおりでしょうね。


そこで本書は、まず、日本にあって外国に無いもの、逆に外国にあって日本に無いものを指摘し、それらがどうして日本に生まれてきたか、あるいは無いのかをさぐります。


以下が目次です。


第1章 世界の中の日本文明―中国ともまったく違うその特殊性と普遍性

第2章 「風土」で読みとく日本文明の特異性―太陽と水、日本を決定づけた気候と自然

第3章 なぜ日本が、平和で安全で清潔か―農耕民族と狩猟民族の比較からみた日本文明のルーツ

第4章 「手の文化」の国・日本―日本が最先端技術で、世界に頭抜けている理由

第5章 なぜ、日本人は時間に正確なのか―元号節句、世界無比の「けじめ民族」の不思議

第6章 文化としての「日本語」―欧米語にも中国語にもない、その独自の世界

第7章 「大いなる和」の国・大和と日本―「神ながらの道」にみる日本人の信仰の形

第8章 なぜ日本文明が、二十一世紀をリードするのか




例えば象徴的なのは言葉ですが、英語のアルファベットが26文字しかないのに比べて、日本には、ひらがな・カタカナ・漢字と、途方もない数の文字があります。なぜそんなことになっているのかを考察します。

日本人は外国からどんどん言葉を取り入れるだけでなく、独自に作り出します。例えば明治時代にできた言葉に、「郵便」「科学」「銀行」「物理」「社会」「印象」などがあるそうです。当然そういった概念が(「概念」も当時の造語)、社会の近代化に貢献したはずです。

また、ソーシャリズム(socialism) を訳した「社会主義」、エコノミー(economy) を訳した「経済」 という言葉はそのまま中国に逆輸入されていて、今も中国で使われているということです。知りませんでした。

他に漢字の本家中国に逆流した言葉は、「文明」「交通」「手続」「哲学」「演説」「会話」「計画」「信用」などだそうです。結構たくさんあるもんですね。


そして、いよいよ日本語に訳せなくなれば、テレビとか、ラジオ、エレベーターとカタカナで書くのですが、中国は漢字だけですから、テレビは「電影」、アイスクリームは「氷菓」となりますが、例えば固有名詞のマルクスは「馬克思」と音で表わすのだそうです。

なるほど大きな違いですが、どうしてこういうことになったのかを日本固有の風土からはぐくまれた国民性、宗教などから解き明かすという一冊です。日本にあって外国に無いものは、食べ物や言葉だけでなく、実にいろいろあるのだとあらためて感じました。

生徒には、アイデンティティーの確認に役立ちそうですし、大人には雑学としても楽しめる一冊ではないでしょうか。


“なんで日本の電車は外国と違って時間に正確なの?”ってきかれたら、どう答えましょうか。電車が時間に正確なのが、珍しいことだと知らない人には、刺激になるでしょうし、知っている人もその理由を自信を持って答えられそうです(笑)。

以前ご紹介した日本人らしさの構造(芳賀綏)』 も、同様の手法で、非常にすばらしい一冊でした。ただ、その文化が生まれた原因までは考察していません。本書は学術的なものではなく、エッセー風の書き方で、そのあたりを高校生でも充分読めるように書かれています。



P.S. 本書は、ご夫婦そろって図書館司書という、HIRO。さん (ブログ名:少林寺と図書館と病気と) に教えていただきました。師匠!ありがとうございます。




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