『プーチニズム−報道されないロシアの現実』 アンナ・ポリトコフス

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日ソ国交回復50年という、記念すべき年なのですが、最近のロシアは変ですね。日本漁船に対する銃撃での船員射殺や、日本の商社が参加している“サハリン2”に対する突然の業務停止命令。

ロシア国内ではチェチェン人だけでなく、外国人の殺害が相次いでいるという報道がありますし、極東のダルネゴルスク市長選挙の候補者が暗殺され、市長選が延期になりました。

そして、何と言っても、本書の著者、アンナ・ポリトコフスカヤ氏が殺害されたことです。


アメリカのライス国務長官は、先日ロシアを訪れた際に、プーチン大統領との会談で、わざわざ彼女のことに言及し、その遺族と面会までしています。こうした批判が世界中から浴びせられることを覚悟で、権力側が、著名なジャーナリストを抹殺したのでしょうから、国内批判勢力に対する見せしめでしょう。それにしてもひどい…。

沖縄サミットで見せた、子ども相手に柔道の稽古をするプーチンの姿に、新しいロシアの指導者像、民主主義時代の到来を感じた人も多いでしょうが、(その前のエリツィンは酔っ払い、人相も良さそうではなかったし…<失礼>)とんでもない。古いソビエトスターリン時代へ逆行しています。
 

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では、ポリトコフスカヤ氏は本書で、何を訴えていたのかと言えば、まさに、プーチン独裁体制に対する批判です。政府だけではなく、司法やマスコミにいたるまで、かつて所属していたKGBの手法プラス、大統領の権限を駆使し、すべてを思うままに操っています。

北朝鮮も独裁体制ですが、少なくとも経済的に困窮していますし、国連の場での糾弾などで、暴発の可能性は指摘されるものの、何をするにも制約があります。

ロシアは違います。石油や天然ガスなど豊富な資源と、このところの価格高騰で資金はふんだんにありそうですし、国連安全保障理事会で拒否権を使える超大国ですから。 疲弊していたロシア経済のゆがんだ復興が、為政者に大きな自信を与えてしまっているかのように感じます。


政治資金をめぐる争いも描かれています。街のチンピラが、その地区の裁判所や政治家を金と脅しで思い通りに動かし、他人の企業をいともたやすく乗っ取ってしまい、敵対するマフィアを叩き潰し、最後は政権中枢部に強い発言権を持つようになるさまなど、克明に記されています。

チェチェン武装集団による、モスクワ劇場占拠事件もご記憶でしょう。学校全体を人質にするという前代未聞の事件もありました。チェチェン人はひどいことをするもんだと思いましたし、いずれもプーチンのすばやく、勇敢な解決策に、テロには絶対に屈しないという強靭な正義感と、卓越した指導力だと感心しましたが、勘違い。

彼らは人質の命など、何とも思っていなかった。おそれるのは、事件によって自らの政治的な発言力、権威が失墜することのみ。本書では、豊富な取材と証言によって、驚愕の事実(このフレーズ使いましたね)、戦慄の陰謀、恐怖政治の実態が暴かれています。


半分ほど読んだだけでため息がもれ、まだこれ以上書くことがあるのかと思ったほどです。『パウロを殺せ』 で描写されているコロンビアも、マフィアの跳梁跋扈がひどいのですが、一応、悪は悪として認識されています。

ところが北朝鮮や本書で描かれるロシアは、政権そのものが犯罪組織、秘密警察です。またまたジョージオーウェルの『動物農場』や『1984年』を彷彿させます。仮に北朝鮮の政権が平和裏に倒れたとしても、ロシアの現体制が残ったのでは、世界に対する危険度は比べ物になりません。


今は亡き筆者の勇気をたたえ、冥福を祈ります。その筆者が凶弾に倒れてしまったことは、本書が真実であることの何よりのあかしですし、驚天動地というのを通り越して絶望感さえあたえる、そんな一冊でした。


 http://tokkun.net/jump.htm 


『プーチニズム−報道されないロシアの現実』 アンナ・ポリトコフスカヤ(著) 鍛原多恵子(訳)
NHK出版:397P:2205円




P.S.(1) 国境なき記者団というのをご存知でしょうか。長くなりますので、説明は省きますが、毎年、世界報道自由ランキングを発表しています。英語で恐縮ですが、ご覧下さい。
 
      → 世界報道自由ランキング

168カ国をランキングしており、最下位はもちろん北朝鮮ですが、ロシアも147位と、記者の取材活動が、制限されているのがわかります。今回の事件で来年はかなり下げるでしょう。中国も163位とひどいですね。

ちなみに日本は、昨年より14も落として、51位だそうです。大きく下げた理由は、悪名高い、記者クラブ制度があるために海外メディアが情報にアクセスできないことと、富田メモに関して、右翼が日経新聞に火炎瓶を置いていったことだそうです。 韓国の31位にも劣っていますから、ホントかな?という気はしますが、記者クラブは早く廃止した方が良いですね、きっと。


P.S.(2) 受験生諸君は、時事の基本を確認!→『試験に出る!時事ネタ日記!


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